お名前:阪上 夏海(さかうえ なつみ)
職業:みんなのコード
副業:青山学院大学社会情報学部附置社会情報学研究センター特別研究員、ワークショップデザイナー(39期)
出身:千葉県
自己紹介:1993年生まれ。青山学院大学大学院修了。学生時代は学習コミュニティデザイン論、学習環境デザイン論、教育工学などを専門として、「Artによる学び」をテーマにしたワークショップの実践・研究に携わる。
具体的には、芸術表現体験活動(アート系ワークショップの体験)と省察活動(体験の振り返り)を行い、児童生徒の資質・能力の発見定着を目指すプログラムとしてALE(Authentic Learning Environment)プログラムを鳥取県や長野県等各地の小中学校で行った。
大学院修了後は人材総合サービスの株式会社クイックに入社し、採用コンサルタントとして業界問わず企業の採用支援を行う。
その後、NPO法人 みんなのコードに転職
現在の活動~採用コンサルとワークショップの実践・研究~
上村:本日はよろしくお願いいたします。まずは今の仕事や活動をご紹介いただけますか?
阪上:今は株式会社クイックという人材総合サービスの会社で働いています。入社後2年間は求人メディアの提案営業からスタートしました。3年目になるタイミングで採用コンサルティングに特化した新規部署が立ち上がり、そこの初期メンバーとして異動しました。役員や人事、現場社員とともに採用戦略構築のワークショップを行ったり、面接官向け研修や内定者向け研修の企画を行ったりしています。他にも、サイトや動画、パンフレットなど採用ツールの制作ディレクションもしています。
業界や企業規模を問わず担当しているので、飲食、IT、造船、半導体、介護、薬局など1日で複数業種の商談予定が入っている事が日常です。入社してからこれまで、知らなかった業界や好きな業界の事業戦略や仕事内容を深く知る事ができて、非常に面白い仕事です。
上村:なるほど。仕事以外では何か活動されている事はありますか?
阪上:教育分野でワークショップの実践・研究をしています。学習コミュニティデザイン論、学習環境デザイン論、教育工学などが専門でワークショップの実践・研究を行っている青山学院大学の苅宿俊文教授のゼミ生だったので、その関係でお仕事をいただいたりしています。最近だと東京ビエンナーレでプラスチックをテーマにした小中学生向けのワークショップを行ったり、教員の初任者研修で苅宿先生が講演をする場に同席させていただいたり、といった感じです。
上村:今のお仕事やワークショップのお手伝いをするようになった経緯について聞かせていただけますか?
阪上:ターニングポイントは大学生です。私は高校まではいわゆる八方美人で、周りの人に合わせて生きていくのが当たり前の日々でした。勉強もテストでいい点を取る事だけがすべてだと思っていました。学校教育の枠組みにぴったりはまっていたタイプですね。
そんなわけで、大学に入ってからは枠組みがなくなり、自由になったので苦しくなりました。規則の中でどうするかを考えるのはすごく得意だったんです。でも、「自分の好きな事をしていいですよ」と言われて、何からしたら良いのか迷いました。はじめは授業の時間割を自分で考えるという事でさえ苦しかった。友達も別にクラスとかないから自分から話しかけないと出来ないというのが結構しんどくて、大学より高校の方が楽しいなって思っていた大学一年生でしたね。自由に解き放たれたという気持ちよりは、もう自由すぎて怖い、何をしたらいいかわ分からないという感じです。
人生のターニングポイント~恩師との出会い~
苅宿先生との出会いは本当に偶然でした。大学二年生のときにワークショップデザインという苅宿先生の授業を履修する事になりました。毎週90分×2二コマ連続という授業で、前半はワークショップ、後半はその振り返りをするんです。教室から飛び出して外で映像作品をつくったり、プロの演出家の方がいらっしゃって演劇ワークショップをしたり、最初は遊んでいるみたいな感覚で、何をやっているのかよく分からなかったんですよね。よく分からないけど、でもなんかすごく楽しくて。苅宿先生のゼミ生も運営スタッフとして参加していて、そのゼミの先輩方と同学年の受講生とのコミュニティが出来ていって、すごく仲良くなっていったんですね。そのうち、苅宿先生やゼミの先輩方に誘ってもらってゼミの活動にもゆるりと参加するようになりました。その活動の中で「ファシリテーションの素養がある」という事を言っていただいたんです。私、昔から八方美人な性格だなと思っていたんですけど、八方美人という事がものすごく活きているって言っていただいたんです。ワークショップでは、参加者数十名をが今どういう状態なのかという事を瞬時に判断する力が必要なので、それが人より早く出来る事や、人より細かく出来る事は、長所だと。その時、涙が出るほど嬉しかったんです。弱みだと思っていた事が強みになるとわかり、何をしたら良いかわからなかった大学生活に突然、やりたい事ができた瞬間でした。そこから、ワークショップの実践・研究にすごいスピードでのめり込んでいって、ゼミに入り、その後大学院まで行く事になるんですけど(笑)約5年間ですかね。一時期はほぼ家にも帰らず研究室に泊まったり、地方の学校に行ったり、ずっと走り回って楽しくやっていたんです。
社会に出た理由~子供との関わりで気付いた事~
学校に行くと、子ども達から社会や将来に対する素朴な疑問を聞かれるんですよ。社会や将来に対しての不安とか期待とかいろんな気持ちがある子たちに対して、大学生として回答するときはそんなに悩まなかったですが、就職の時期になると悩み始めました。大人になるという事に対して色々聞いてくれる子たちに対して、それっぽい答えしかできなくてモヤモヤして。「社会に出て、自分が感じた言葉で伝えないとダメだな」というのをすごく感じたんですよね。なので、教育分野に携わる事は私としてはすごく楽しいし、やりたい事だし、課題感や使命感みたいなものも感じていたんですけど、一度社会に出て、20代はいろんな経験をしよう、自分で体験して言葉にできるようにしよう、と思いました。結局、楽しい気持ちが勝って大学院までは行ったんですけど、それ以降は一回ちょっと社会に出ようという事で今の会社に入りました。
今の会社が先ほどお伝えした通り、業界や役職問わず色々な方に会って、事業のターニングポイントや就職・転職といった人生のターニングポイントを知る事が出来る点や、十代後半、二十代前半の子たちが社会に出るタイミングの支援が間接的にではあるものの出来る点が魅力でした。また、入社当時は求人メディアの原稿を作るのがメインの仕事でしたから、原稿を作るために今回の上村さんとのインタビューように話が出来るわけじゃないですか。自分が指定した人と話が出来る、会いたい人に会えると思ったんです。例えば、原稿を書くためなら社長に会いたいという要望でさえ「そうですね。何とかセッティングしますよ。」ってなりますし、他にも、その会社で一番活躍されている方とか、女性役員とか。さまざまなバックボーンの方と1時間とか対話出来るのがすごく面白いし、社会のいろいろをすべてではないですがある程度を最速で知れる仕事かもと思ったのでクイックに入社をしました。
ワークショップの魅力~自己理解と他者理解~
上村:ありがとうございます。今の話、いくつか聞きたい事があって、まず、ワークショップという話がありましたが、ご自身がワークショップを提供されている中でその魅力や効果を教えてもらえますか?
阪上:価値観の変化というか、多様性を提供できるなと思っています。私は特に小中高大学生の方に学びの方の一つの方法としてワークショップの場を提供する事が多いですが、彼らが新しい自分の価値観を見つけていくきっかけになっていれば嬉しいですね。
基本私たちは一度きりの活動はしてなかったんですよ。短くても半年とか関わらせてもらっていたりしていたので、結構その繰り返していく中で感想シートの内容が変わっていくんです。最初は「楽しかったです」と書いていた子たちが「〇〇が楽しかったです」というふうに「何が楽しかったのか」という事を明確に言ってくれるようになるんです。同じく楽しかったと感じた子がいても、理由まで同じという事はなかなかなくて、その違いを楽しむ事ができるようになっている様子を見ると嬉しいですね。学校教育によって他者と違う事が「間違い」のように思ってしまっている子もいたりするので、違いを楽しむのって結構難しいんですよ。違いを楽しめるようになると、人に興味を持つようになるので、そこからまた会話が生まれて自己理解や他者理解に繋がったり。他者を理解しようとすると自分を理解しなきゃいけないみたいな循環という葛藤というんですかね、そういのが彼らの中で生まれていく感じが良いなと思ってやっていました。
上村:そうですね。私も今の話聞いて、自己理解から他者理解、そして相互理解するというワークショップデザイナーの学びの場で学びましたけど、まさにその楽しさがあるんだなって事を聞きながら思いました。
形成された学習観~アート的な学び~
上村:その具体的にみなさんにイメージが湧くようにワークショップの事例があれば教えてもらえますか?
阪上:そうですよね。学習コミュニティデザイン研究ユニットというところでブログを書いているんですけどそこの取組を参考にしてもらえたら。
私がやっていた事ですと、そもそもワークショップの定義は他社理解と合意形成のエクササイズみたいな事が基本にあるんですが、私はその中でもアートによる学びというテーマでずっとやっていました。
アートは「するアート」「見るアート」というのがいわゆるアートとして認識されていますよね。その中で今は割と考えとしても浸透しつつあると思ですけど、「使うアート」というアートを何かの目的を達成する為の手段として使うという考えがあるんです。誰かと何かを作るとか誰かと何かを一緒に表現するという意味でのアート活動を通して、そこで生まれた自分の無意識の言動を振り返って「なんでそう行動したんだろう」とか「なんでそう思ったんだろう」「なんでそれを口にしたんだろう」という事を振り返ってメタ認知能力を上げるような学習の場を作っていたんです。
研究ユニットHPより
具体的にはこういう感じです。ここに写っているのは大学生なんですが、プロのダンサーや演出家の方に来ていただいてみんなでダンスや演劇のような表現ワークショップをします。そして終わった後に振り返りをして、自分のポートフォリオを作っていくんです。
研究ユニットHPより
研究ユニットHPより
表現ワークショップをやった時に感じた事をリフレクションシートにテンショングラフという形で書いてもらうんです。例えば「なんかちょっとダンスって言われて、え!?ってなった」とか「でもやってみたらここが面白かった」とか「ここは難しかった」とかを感覚的に感じた事を残しておくんです。それで次の週に振り返りの授業があって、その感想に対してなぜそう思ったのかという事を一緒に活動したグループやペアで対話していくんですよね。そこで得た自分の特性をこうやってポートフォリオに残していくと、一つの授業が終わるまでに一冊のスケッチブックがいっぱいになるんです。こうして、表現ワークショップをして、翌週に振り返りをして、またその翌週に体験をして、また振り返ってというサイクルを半年間繰り返すんです。この授業は私は約4年ほど関わっていました。もともとは自分も受講生側だったのが、運営側として成長していく。これも実は私の学びになっていたんですよね。小中学生向けにはもう少し難易度落としながら、でも基本形は同じようにやっていました。
上村:面白く、素敵な活動ですね。
今のお話を聞いて、人は無意識な部分が97%くらい、意識部分は3%くらいしか使っていない、そして無意識から意識に表層化するにも自分に植え付けられた価値観や思い込み等のフィルターを通されるという事を思い出しました。
今、なっちゃんの言葉からワークショップで出てきた無意識みたいなところをリフレクションして、それを言語化して、自分が体感した事に再現性をもたせる。そして実践をする。そのサイクルを回すという話がありましたが、最近私も体感する事が多く改めて大切な事だと思います。
阪上:そうですね。大事ですね。
半年間の変化という点ではやっぱり大学生が一番大きかったですかね。
なんかもうみるみる書く事、行動、発言が変わっていくんです。それがこの活動で一番面白かったです。ただ活動の意味があるなと思ったのは、小学生向けに実施するときですね。小学校高学年ぐらいでこの活動に出会い、自分の価値観を知る事ができるとこの先のものごとの捉え方が変わってくると思うんです。向き合い方が変われば、吸収率も多少なりとも変わると思います。
大学生はすぐ就活となるので、実践の場が就活になる事が多いんですね。そうなってくると、結構現実と理想とのギャップとかで結局元の自分に戻ってしまうなんて事が起こるんですよ。それで結構苦しんでいる子たちがいたんです。自分が楽しいと思える瞬間がなぜ起こるのかをあんなに言語化したのに、就活の時にそれをうまく出しきれなかったとか、本当にここの会社でよかったんだろうかと内定もらってから迷う子とかがいて、逆にモヤモヤの要因にさせてしまったみたいなところもあって、そこはすごく難しかったですね。
上村:時間やタイミングも必要なんですね。
阪上:やっぱりこうした活動をもう少し長期的に繰り返していく必要があるなと思っています。大学生に対して実施する方が変化が見えやすくて面白いけど、今後やりたい事としては、小中学生ぐらいにアプローチ出来ると意味があるのかなとは思っています。
上村:早い方がいいというのはありますね。でも、大学生にそういった近づいてくる現実に対して未来を見せながらその未来と現実のギャップに苦しむんじゃなくて前に進めるような事が出来たら素晴らしいなと思ったんですが、なんか方法あるんですかね?
阪上:そうですね。今のこのアートによる学びっていう考え方はすごくこれからも大事にしていきたいなと思っているんです。この考え方の型は自分の中では「勝ちの型」だと思っているんです。
この「芸術表現体験」+「省察」というセットでワークショップをしていくスタイルは恩師である苅宿先生にいただいた財産であり、多分一生私はこれでいくんだろうなって思っています。ここにどういう手段を持ってくるかは大学生か小学生かによってまた全然違うと思うので、そこは自分なりに模索していきたいなと思うんですけど、総じて「芸術表現体験活動」のところで夢中になるとか没入するっていう事がめちゃくちゃ大事だと思っています。結局「なんでこれやっているの?」とか「今何やったらいいの?」みたいな疑問がワークショップの活動の中で起こらないように設計をする事が私の中ではすごく大事に意識している事ではありますかね。私がワークショッププログラムを作るとき、「なめらかさ」みたいなものが強みだと思っているんです。プログラムとプログラムがぶつ切りにならないように、全体の流れをとても大事にしています。伏線回収みたいな。受けている子からしたら「ここよくわかんないだろうな」とか「なんでこれやるの?ってなるだろうな」というところを埋めていく事が私の中では得意ですし、大事にしているので、そういう我を忘れて楽しめる場をこの「芸術表現の体験」でつくれたら上手くいくと思っています。
研究ユニットHPより
上村:この型は自分も体感しているんで、すごくいいなって思います。
はてなマークが起きない設計をして、体感しやすくする事が大切だと聞きながら思いました。
コミュニティがつくりあげてくれた自信と強み
そして今も「なめらかさ」が強みという言葉がありましたが、その強みとかを言語化するのがすごく上手だなと思っていて、そのように自身の強みを認識するにはどういう事を意識しているんですか?そしてなぜそういう事が言語化出来るようになったのでしょう?
阪上:強みを意識出来るようになったきっかけって事ですよね。
上村:こういう事をなかなか意識できないとか、自分の強みが見つからない人のヒントになればいいかなとか思って。
阪上:うーん、これは少し特殊なのかもしれないんですけど、大学で、苅宿先生に出会って苅宿先生とその周りのコミュニティに入れていただいたのがとても大きかったと思っています。絶対的に信用してくれる仲間とか、絶対的にこのメンバーだったらうまくいくっていう自信のようなものを大学と大学院の間で体感出来たんです。部活とかもやっていたけど、部活って誰かのためにやるものではなかったので。もちろんチームへの信頼感とかコミュニティ感みたいなのは持っていたけど、ちょっと感覚が違かったんです。ワークショップデザインの学びの時も「正統的周辺参加」、「徒弟制」みたいな話出てきたじゃないですか。まさにそれで、最初は授業を受ける側だったのが、ゼミの手伝いを始めて、気づけばゼミ生になっていて、研究員の先輩方と一緒に色々プロジェクトに参加させてもらって、受講生側だった授業を運営する側になっていて、そして学年が上がると今度は授業を受講していた後輩が入ってきて、同じようにゼミに入ってくるんです。その子たちと一緒にワークショップをして、「価値観を共有できているこのメンバーだったら何でもできるぞ!」と思えていました。
私は「バケモノの子」というアニメ映画が好きで、主人公の九太が本当にまさに自分だなっていつも思うんです。血が繋がってないのに親子、家族みたいなコミュニティが出来たのが大きかったと思います。自分にはここがあると思えるとかこのコミュニティの中で自分の役割はこれだというのが認識出来たんですね。それだけたくさん一緒にやってきたから、自分の強みはこれ。でもこれはできないから助けてねというような関係性ができていたのが大きかったと思いますね。
阪上:だから、メッセージを送るとしたら難しいんですよね。結構特殊なタイプだなと思うんですけど。
上村:なっちゃんの話を聞いてミュニティの力は大事だなって思いました。
先ほどの「八方美人はあなたの強みですよ」と苅宿先生から言われた言葉もそうだけれども、コミュニティがあればそういう周りからの言葉にも勇気とか強みをもらえますよね。
あと、自信っていうのがすごく大事だなと思って自分を信じるって書いて「自信」と読むけど、自分を信じる事がその最大限の自分が出せる1つの方法なんだろうなと思っていて、だから、自分を完璧に信じて自分を出せるコミュニティにいると、自ずと強みというものは言語化出来るし、周りからもリフレクションしてくれるから自分の強みというものを自信を持って認識出来るのかな?なんて事を思ったりしました。
阪上:そうですね。それはすごく思いますし。逆にワークショップやる中でいつも言われていた弱みがあるんです。2:6:2の法則ってご存知ですよね。
上村:はい、組織の人材を例にすると2割が優秀で6割が普通、2割かあまりよろしくないみたいな割合になるという話ですね。
阪上:そうです、私って下の2がどうしても気になっちゃう人なんですよ。
上村:なるほど。
阪上:八方美人な性格が起因してなのか、ワークショップをしていても、下の2の子たちを6にあげたいっていう気持ちの方が性格上すごく強くて。でも、苅宿研究ではワークショップをやる時は上の2に注目してさらに引き上げることを考えろ、そうしたら6や下の2も引っ張られるから、といつも言われていたんです。私は強くその事を意識しないと出来ないので、何回も怒られながらそこに目を向けるようにしていました。これって自分自身の事を考える時も同じで、結局できない事を出来るようにする事は大人になったらある程度のところでやめた方がいいんですよね。
上村:なるほど。
阪上:上の2に注目して、それが出来る環境コミュニティに身を置いてチャレンジして、成功体験を増やしていく事で、自分の強みはこれだと言えるようになる事が大切だと思います。そして、強みを磨く事に時間をかけた方がいいなとすごく思います。自分が10代に戻ったらもうちょっと自分の強みに着目していろんなものを選択していきたいと思いますね。
上村:出来ない部分に目を当てて比べる事多いですけども、それよりも強みに目を向けた方が体にも心にも良いと思いますね。
阪上:そうですね。
心が動いた瞬間をとどめておく事の大切さ
上村:ありがとうございます。コミュニティとの出会いと恩師との出会いが大学生の時にあり、それがターニングポイントだったという話がありました。そしてそういった出会いが大事という話がありましたが、その出会ったきっかけについてと、皆さんに対してこうしたら良いかもという事を聞かせてもらえますか?
阪上:もともと偶然は偶然なんですけど、そもそも青学に入るときに大学パンフレットを見比べていた時にきっかけになったのって結局苅宿先生の授業なんですよね。当時を思い返してみると、先生の授業が青学のパンフレットの紹介のメイン授業みたいな感じで、紹介されていたんですよ。で、それが面白そうだなと思ったのがきっかけでその学部に入学しようと思ったんですが、入学してそれを忘れちゃっていて、最初受けたかった授業に落ちて、たまたま受ける事になったんですよね。でも結局きっかけは先生の授業だったなと今思い返してすごく思います。
どうやってそういった体験に出会うかというと、自分の「面白そう」「好きそう」「なんかいい」という事を覚えておく、残しておく事かすごく大事だと思っています。私、インタビュー記事を読む事が好きで、そのインタビュー記事の気になる言葉を全部ためる専用のノートがあるんです。迷ったときにいつも読み返して、自分の心を無理矢理でも動かすんです。そうすると不思議なもので、運と縁は巡ってきますよ。
自分の心が動く瞬間をとどめておくという事が大事だと思っているので、10代の皆さんにも自分が「面白そう」「心動いた瞬間」とかは覚えておくようにしてほしいです。毎日じゃなくてよくて、「あっ」と思った瞬間、心が動いた瞬間を残しておくという事が大事とは思いますね。2016年に始めたこのノート7年ほどかけてついこの間やっと1冊目が終了しました。ちょうど30歳の誕生月だった事にも縁を感じました。今は2冊目をオーダーメイドで作成中です。
上村:今まさに心が動きました。この瞬間をとどめたいと思います。
阪上:(笑)
上村:そうやってとどめていって、自分の心動く瞬間とかが分かってきて、それを意識して動いていくと、例えば「この車買いたいなぁ」という思いを強く考えるようになったら急に街中でその車種ばかり目につくみたいな事があるって聞きますよね。まさにそうやって物理的に残しておく事によって、意識を向ける事が出来て、そういうコミュニティやきっかけに出会う確度もあがると思いました。あとは言葉にして発信していたら聞いてくれている人が「そしたらこんなものがあるよ」という感じで直接的にもつながってくるというのが私も経験からすごく感じます。
阪上:そうですね。確かに、意識し始めた瞬間に視界が変わるっていうのはありますよね。
仕事での現実とギャップ、ワークショップの学びが活きた経験
上村:本当に私にも気づきと学びが多いお話です。ありがとうございます。
現代ぐらいにちょっと戻っていきたいんですけど、それで今の会社に社会を知るという事で入られたじゃないですか。そしていろんな人に会っていろんな人生を聞けるっていう話がありましたが、実際それは実現出来たんですか?
阪上:結論としては出来ました。今の時点では出来ましたと言えるんですけど、二年目ぐらいまでは「あれ全然違ったな」というのは思いましたね。本当に全然、違ったんですよ。色々知らない事がやっぱり多すぎたんですね。
だけど、その時も結局「振り返る」という事がすごく活きたんです。
例えば、毎日、電話百本とかかけるんです。後、当時は飛び込み営業もあって、ひたすら東京の飲み屋街を端から端までビルの上から下まで全部飛び込んで「採用困ってませんか?」というとこから始まるんですよね。
上村:すごい。バリバリの営業会社ですね。
阪上:そうなんです。もうゴリゴリで、しんどかったんですよ。正直「ええっ…」て思ったんですけど、でもここで何を学ぼうかって思って仕事をしていました。私は結局教育に還元するぞという目的があって、そのいつかの目標のために入社したので、この状況からどうにかにして学びを得ようというのを考えていたんです。どうやったら学べるかと考えたときに一回一回、それこそ残しておくという事をしました。電話するたびに「この人はなんで話を聞いてくれなかったんだろう」というのを考えてメモする事とか、飛び込みで名刺交換出来た人とできなかった人がいたら、「今出来たのはどうしてかな」「さっき出来なかったのはどうしてかな」「どちらも似たような店長だったのにどうしてだろう」とか、「業態は同じだったのに」みたいな事を全部書き留めて分析していたんですよ。それで振り返って「明日はじゃあこういう自分のチャネルで行こう」「1年目で飛び込みしてますと最初に正直に言ってみよう」とか「第一印象が弱々しかったから追い出されたのかも、そしたら次は元気系でいこうか」とかを毎日考えていたんですよね。やってみて、振り返って、翌日、みたいな事を続けていったら自分の中にノウハウが蓄積されてパターンみたいなものが出来てきました。そしたら気づいたらメモしなくても当たり前に自分の中に出来るようになって、ご発注いただけるようになっていきました。
「よし一個学びゲット!」みたいな感じで思って、そういう事を積み上げていって二年間は過ごしてきて、三年目からは入社前にイメージしていた仕事内容の部署に異動出来たのでそこからは割と楽しく自分のやりたい事をやっていけました。
上村:なるほど。やはり、目的や意図の力ってすごいですね。それがあったら辛い事でも自分にとって学びとか力に出来るなというのはすごく感じました。今ずっと話を聞いていると、大学生以降のところの話は凄く完璧というか、落ちた時ってないのかな?と思ったりするんですけど、どうだったんですか?
阪上;もちろんありましたよ。昔から割とポジティブな性格ではあるんですけど落ちたときも全然あります。だけど、ワークショップに出会って以降落ちる時も割とそこから何を得るかという思考にすぐなれるんですよね。「なんかもう無理だ」って泣きながら電車に乗る事や「もう私このまま飛び込んでもいいかも」ぐらいの時も全然あったりしたんですけど、プラスの感情もマイナスも感情も知っていた方が教育の現場に戻ったときに使えると思っていたのでそういう瞬間も踏ん張れました。目的があったことに加えて、振り返りの重要性をワークショップで身に染みて感じていたので、社会人生活の中で「もう本当に無理だ!」みたいになった事はないかもしれないですね。
上村:自分のOSが変わったんですね。
阪上:そうかもしれないです。
上村:ワークショップでの学びや、先ほど話をしてくれたアートの「勝ちの型」や周りの方との出会いや関わりで自分の確固たる「これ」というのが出来上がってくる事で強くなられたと思いましたね。
阪上:そうですね。そうかもしれない。やはり自己理解ってすごく大事だと改めて思いますね。
上村:そうですね。自己理解によって、復活する力や、再生する力が芽生えてくるんだと思いました。
この前の瀬川さんの記事の中にもレジリエンスのための五つの力というのがあって、自己肯定感がとか自尊心とか楽観性とか感情調節といったものがあるという話があったんです。感情調節というのは「この感情はこうじゃなくて、こうとも捉えられるよね」とかその出来事の認識を変えるみたいなお話です。それがまさにワークショップを通じて得られたかもと思いました。
阪上:そうですね。それはすごくあると思います。
10年後の自分について~新たな武器と今の強み~
上村:今後の未来の話を聞かせてほしいんですけれども、なっちゃんは20代の時にね、30歳は「しなやかな人」になると話しておられたじゃないですか?(※以前の動画参照)それで今年30歳ですね。10年後の40歳はどんな自分になりたいか、あとはどういう事を行っていたいかという二つの視点で教えてもらっていいですか?
阪上:そうですね。今、教育系のNPO法人に入ろうと思っているんです。
そのNPO法人のサイトとかだけを見るとプログラミング教育要素が強いので、少し違うのかなと最初は思っていたんです。どちらかというと「教える教育」という領域で取り組まれている印象でした。私がやりたいのは子ども達自身が能動的になれる場、自分自身を受け入れられる場だったので。。
だけど、これからの時代、夢ややりたいことを実現するためには考え方だけではなくて物理的な選択肢をたくさん持っていることも重要だという考えに至りました。テクノロジーはまさにその中でも避けては通れない分野だと思います。それに、プログラミングを「教える」前に私がそもそもそのプログラミングに興味を持ってもらう場だったり、ちょっとでも面白そうとかやってみたいと思える場だったりを作ってから、プログラミングを「教える教育」に移っていくといったようなアイスブレイク的な存在になれる可能性もあるかなとも思ったんです。
阪上:武器と強みの二つを持ち合わせるみたいな感じですかね。これからの時代に必要な武器であるテクノロジーと自分の強みを掛け合わせて30代はとにかく好きな事に集中する人生を送りたいと思っています。20代はやりたくない事もやるというスタンスで社会を知り、いろんな感情を経験する修行の期間だったんですけど、30代は自分のやりたい事に集中するというスタンスでこだわってやっていきたいと思っています。
上村:あり方やヒューマンスキルみたいなものは大切とは言いますけど、そういったプログラミングといった専門スキルも大切ですよね。
阪上:そうですね。すごくそこは私も弱いし、自分が経験しなかったので全く想像できない領域なんですよね。だから私がさっきワークショップをなめらかに作れるのが強みという事をお伝えしたと思うんですけど、想像できない事をなめらかにつくるのってとても難しいと思うんです。だからこそ、そこは避けて通るべきではないなと思いましたし、学びたいと思っています。
今後10代の子とはどんどん年齢が離れていくので、彼らがこれから何に悩むのかとか、どんな壁と向き合っていくのかとかを知りながら、自分の経験上「これは絶対に必要」みたいな信念として思っている事をうまく伝えていけたらと思っています。
上村:当たり前の話だけど、10代の子と自分たちでどんどん離れていくんだなと改めて思わされました。目の前の子達は一緒に年を重ねていくんだけども、自分たちが提供したい十代は十代なんですもんね。そして時代も移り変わっていく中でその今の時代の十代に必要な環境、価値観も変わってきますよね。我々も常にそれこそ「しなやか」というか変幻自在というか、そういう人間にならないといけないと思いました。
阪上:そうなんです。好きな事だけやっているとそれはそれでよくないので、やっぱり必要な事と好きな事を掛け合わせて、好きな事を極めていくみたいな事が大事かなと思います。好きな事でなくても、自分が能動的になれる事っていうのを見つけられるかが大事ですね。自分も伝える側として、それを体現していくことができたらと思っています。
ワークショップを入れ子的な仕組みで取り組んでいきたいんです。
上村:入れ子?
阪上:教えることが一番の学びっていうじゃないですか?簡単にいうとそんな感じです。
例えば、表現ワークショップと省察活動をした場合、私にとってはその取り組み全体が表現ワークショップであり、終了後に必ず省察をします。そうやって循環していくんです。ワークショップを実践する場がある限り、その実践+省察を繰り返していくことで自分も学んでいきたいと思っています。改めて、この学習観を与えてくれた苅宿先生には感謝しかないですね。
だからこのワークショップという場での学びを小中学生に伝えていく事って、彼らが自分の学びのスタイルに気づいていくきっかけにもなるのかなと思っていたりします。
上村:10代の子と一緒に成長していくっていう感じですね。
阪上:そうですね。30代は。
40歳のbeの肩書~〇〇な人~
上村:30歳の時は「しなやかな人」「しなやかさ」というのがキーワードにありましたが、40歳の時の自分に「〇〇な人」とラベリングするとしたらどういう人になるんですか。
「しなやかな人」が土台にあってその上にプラスという感じですかね?
阪上: 30歳になる前に考えようと思っていたんですけど、まだ考えられていなかったですね。
そうですね。もうちょっと強くなりたいなというのはあって、その「強く」のニュアンスが難しいなと思ですけど、強くてしなやかな女性になりたいですね。しなやかって、やっぱりしなりすぎるとちょっと弱さあるじゃないですか?なんか左にもすごくしなるけど、右にもすごくしなるみたいな感じだと結局どっちつかずみたいになったりするんで。この芯になっている部分はもっと強くしたいなって思っています。この芯作りが20代は弱かったなって思っていて、「何でも共感出来るよ」という感じになっていたと思います。自分がこれだって思った事で太く強くしていく事をしたいですね。でも、誰も寄せつけない強さの意味での「強い」じゃなくて本当にしなれるという意味での「強いよね」という事を言ってもらえるような人間になりたいなと思っていたりします。
上村:いい言葉ですね。今のお話聞くと、どちらかにしなった後は自分で起こしにかかる事で立たせる事が出来るのではなくて、、強くしなやかというのは、まっすぐ自立する事も出来るようなイメージが湧きました。
阪上:確かにそうですね。なんか片側に行った後にビヨーンってそのまま止まらずに、真ん中にビヨーンって戻れる感じで(笑)
上村:そうそう。私は今のなっちゃんを見ていてちゃんと軸があって真ん中に止まりに戻れる事も出来るけれども、ちょっと力を入れたら意識しないと止まれないくらいで、でも芯が出来て変幻自在になれるんだろうというイメージがつきますよ。
阪上:それはワークショップという学びの手段がどの場面でも、誰に対しても、自分に対しても当てはめられるものであったというのが強かったですね。その武器を私が持てたから、なりたかった自分に少しだけど近づけたなと思えたので、これからさらに極めていく事で芯を太くしていき、強くなりたいと思っています。
未来を生きる人たちへのメッセージ~新たなチャネルと過去体験の振り返り~
上村:最後に高校生、大学生、若い社会人といった10代、20代の皆さんにメッセージをいただけますか?
阪上:今の子たちが学習するという事をどう捉えているかちょっと分からないですけど、やっぱり勉強をしていい高校に行く、いい大学に行くという事が目的化しているというのを感じています。当時は私も同じように言われていて、テストいい点取った方が絶対いいでしょというのがどこかであったんですね。もちろんそれはそれで大事だとも思います。
でも、どこかに違うチャネルも1個、2個持っていてほしいなとすごく思います。チャネルが1個しかない10代の過ごし方はもったいないとすごく思うので、学校の授業が大事と思っている子たちもそれはそれで大事なんですけど、どこかで社会に興味を持つとか、友達に興味を持つとか、他のコミュニティに目を向けたりする事もやっぱり意識してほしいなと。自分がもっと早くやっていたらという後悔しかないのですごく感じます。
あと、とにかく夢中になれる体験をする事も大事だと思います。そうすると結局大人になった時にそれを振り返られるんですよね。そのさっきの「勝ちの型」でいくと、10代が表現で20代が省察みたいな。10代の振り返りを20代にして、次の強みに繋げて、20代の振り返りを30代にして強みをさらに進化させて、、、そうやって生涯学習していけばいいと思います。だから10代はとにかく、自分にとって楽しい事をしましょうと言いたい気持ちもあるんです。
だから、経験・体験するという事と、振り返るという事、そこから自分の能力を見出していくという学習方法が日々の小さいサイクルでも使えるし、人生という壮大なサイクルでも使えるという事が言いたいんですけど、言葉にするのって難しいですね。
上村:いえいえ、十分に伝わりますよ。今の話を聞いて私も10代の楽しかった思い出って確かにすごくあるなと思います。普通に仲良い友達と毎日毎日駅まで帰っていつもダラダラ喋っている風景が思い浮かぶんですよね。でも、かたや後悔もすごくたくさんあって、私は後悔のパッケージの方に意味付けとか内省して今に繋がっている部分はたくさんあります。
でも楽しかった思い出への意味づけや、感情を振り返ってみる事をしてなかったと思いました。多分あの時の事を振り返ると意味ないように楽しんでいた時間も何かしら今につながっているんだろうと少しでも考える事が出来るのかもとヒントをもらえました。
阪上:そうですね。失敗や落ちた出来事から学ぶ事も、もちろんあると思っています。だけどさっきの2:6:2の法則じゃないですけど、良かった事に目を向けてみてそれの再現性を高めていく人生の作り方もありますよね。再現性を高めていく人生、自分の好きな事がまた自分で起こせる人生がこれからの時代では結構ポイントなのかなと思います。
上村:ありがとうございます。若者に対してのメッセージという事でいただきましたが、この考え方は私のような30代、40代の大人にもすごく考えさせてくれる話だと思いました。だからなっちゃんのお話はたくさんの人に届くんじゃないかなと思っています。すごく貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを通じて
「30歳はしなやかな人になりたい」と言っていた彼女。それを聞く前だった時に初めて話した時の第一印象は「和やか、かつ、視野の広い洗練された人」という感じで「しなやか」という言葉が今となってはしっくりくる印象だった事を思い出します。彼女が理想としている姿に傍から見えたのは、やはり「勝ちの型」芸術表現体験からの内省のサイクルを回して日々、自身の目標へ歩んでこられたからなのだろうと思いました。
一つ一つの言葉に思いと意図がこもっていて、自分と周りの人の理想の未来のために「今、何をすべきか」という事をかなり深い解像度で言語化されていると感じました。
ご自身のターニングポイントはコミュニティとの出会いで、そこでお互いを信じあえる仲間と恩師に出会い、自分にも自信が出てきたという事、そして偶然の出会いだったかもしれないけど、そういった偶然を生み出す「心が動いた瞬間をとどめていく」事によって得られる力の強さを感じました。
今こうしてキーボードをたたきながら彼女のインタビューを推敲させていただいていますが「心が動いた瞬間」をまさにこの瞬間に書きとどめさせてもらっている事に感謝です。
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