お名前:尾家 満(おいえ みつる)
<職業>
株式会社ミッション6 代表取締役
<ボランティア活動>
自死遺族わかちあいのファシリテーター
子どもグリーフサポートのファシリテーター
自殺予防の電話相談員
<その他活動>
ラジオ番組「あしあとのかなたに」パーソナリティー
<講演実績>
「自死遺族 遺された者からのメッセージ」
福岡県精神保健福祉協会主催、社会福祉協議会主催他
<事業の目的>
自殺者を1人でも減らす。ありのままの自分、ありのままの自分でいられる場所に気づくお手伝い
<自己紹介>
母を小学生の時に、その影響で大人になって兄を自死で亡くしています。また会社員時代に中小企業の経営に関わり合理化、リストラを経験し、経済的価値でない、生きる本当の幸せを考えるようになり、2023年7月に心と向き合うお宿「利他庵」を開業して、親子の対話、地域間の対話、地域内外の対話等の対話の場づくりの拠点となるように活動しております。
現在の活動~利他庵を始めた経緯~
上村:まずはご自身の事業についてお話いただけますでしょうか。
尾家:はい。現在、起業をして3年目です。
まずは太陽光発電事業を立ち上げて、ブルーベリー農園で栽培を開始させて、本来やりたかった目的の宿を作るという事で利他庵という宿を7月につくりました。今後の活動としては利他庵を拠点にして対話の場を創ろうと思っています。それは家族での対話の場、地域間での対話の場、地域間、世代間を越えた多様な対話の場をつくっていきたいと思っています。その拠点を使うための活動を今始めているというとことです。
上村:それぞれの活動についておうかがいしたいのですが、まず太陽光発電事業とブルーベリー農園を始められた経緯は?
尾家:自身がメインで行いたいのは利他庵の事業ですが、これだけでは収益化は難しいと考えています。元々ボランティア事業からの延長で始めた活動なのですが、自分が食べるだけの収入を得られないのと必要な宿の運営資金を得るためにはどうすれば良いかと考えた時に前職で関わっていた太陽光を事業にしようということと、付帯してブルーベリー農園を始めたという流れです。
上村:という事は何か利他庵の活動の価値観や親和性という観点ではなく、あくまでも収益事業という考え?
尾家:ブルーベリー農園については利他庵との相乗効果も考えています。利他庵のファンになってくれた人がブルーベリーも買ってくれるような流れにはしたいと考えています。
上村:では今後のメインとして活動を考えておられる「利他庵」についておうかがいさせていただきます。こちらを始められた経緯を教えていただけますか?
尾家:もともと「自死した遺族の分かち合いの場」に参加して色々な人の話を聞いていました。そこでたくさんの大きな悲しみがある事を感じました。それを未然に防ぎたいと思うようになって自殺予防の活動をしてきました。
そこで感じたことは、どうもまずあるのは親との会話の問題なのです。
特殊な家庭環境もあるけど、普通の家庭環境でも起こっている問題なのです。それは親が悪いとかではなく時代的な部分もあると思います。全然、子どもの話を聞いてないし、先回りして決めてしまっているという事が多くあると感じています。そうなってくると子どもは結局、自分の事を聞いてもらえず、尊重されていないという気持ちが生きづらさに繋がっていくと思うんですね。
そんな中、核家族化してきているので周囲の大人もいないという問題もあります。昔は親とは仲が悪くても周囲の大人がいたので助けがあったのですけど、そこもなくなってきてるのでセーフティネットがない状態になっていると感じます。利他庵がある地域で言うと、4年後には今、中学校が4つあるけど1つと義務教育学校が1つになってしまいます。小学校は5年後には10あるけど2つになってしまうようです。そうなってくると基本的に歩いていけない。誰かが車で送っていかなければならないという家と学校の往復の途中で、子ども同士で寄り道して遊ぶことはできなくなります。
そうするとなおさら学校外の社会と触れ合う事、体験する事が出来なくなってしまいます。ましてや小学校から高校生まで同じメンバーになるのですよ。これで多様性を求めても多様性が無い社会にいるのに、社会に出ていきなり多様性を求められても厳しいなと思いました。
だからこそ逆に計画して、多様な価値に触れる場所をつくらないと、子供たちは籠の中に入れられて世界を知らない状態で、その籠の中では対話をしなくても察しあって自分を主張できずに、なおさら今より生きづらくなると感じたのがきっかけです。
上村:ご自身でラジオをされたり、またラジオ番組に出てお話をされたりしているとも聞きましたが、そのきっかけはどういうものだったのでしょうか?
ラジオ番組のきっかけはですね、たまたまSNSでラジオしませんか?というのを見て手を挙げたのがきっかけです。
自分が落ち込んでいる時って文章を読む力ないなと思ったし、動画配信とかみても全然頭にも入ってこないと思ったのですよ。
そんな時でも一つの言葉がキーになって、なんか少し後で調べることができるかなと思ったのですよね。そういうことを考えたらただ流れている言葉の中で、何かを一つのことがポンと当たるってことあるのはラジオかなと思いました。文章も私は色々と残しているのですけど多分一番どん底の人って文章読む気力がないので、そこはちょっと響かないかなと思ったので。ラジオでは30分喋っていますけど、何かその中の一言がその人がハッと思うことがあればいいなという思いがあって始めました。
後はアーカイブも残しています。それは自死遺族の分かち合いの会をしていますが、そういう現場に来られない自死遺族もいっぱいいると思うんですよね。そういう人にアーカイブ渡して私の経験を聞いて他の自身遺族が、どんな気持ちで生きてきたというのを聞いてもらいたいなという目的がありますね。
利他庵にこめた思い~利他を分かりたい
上村:そうだったのですね。「自死した遺族の分かちあいの場」というお話がありましたがご自身がそこに参加された経緯は?
尾家:もともと僕が自死遺族なのでそういった自分の経験を生かせるかなと思ってサポートスタッフとしてボランティアに参加したのです。そこでスタッフとして入ったのですが、自分もそういった色々な思いを自己開示する中でいろんな自分の気付きができたりして、「これってやっぱり必要なことだ」と思ったのですね。
やっぱりその自分の感情を表現できる場所というのは必要だと思ったのです。
いろんな子供の頃に蓋をした感情っていうのをやっぱり早くどっかで出さないとそのままずっと死ぬまで持ってしまって、そこで気づいてもしょうがないので。
書籍「7つの習慣」の冒頭の「自分の葬式から考える」っていうのがすごく好きで、緩和ケアの知り合いが結構多いのですけど、皆さんの患者さんとのお話を聞いていると、その時に後悔することってやっぱり身近な人との対話なのですよね。皆さん仕事ばかりしてきて、本当は守りたい大事なものがあるのですが、守ろうと思った人とようやく余暇をすごせると思ったら時間が既になかったということをすごく後悔されるので。ただ、死ぬ直前に気づいても関係の修復は難しいですよね。子ども、家族との関係の修復も、もっと早く気づいて、その時点で修復できればもっとこういう子どもの自死を防げるし、死ぬ直前に後悔する大人も減るかなあと感じます。
上村:率直にお話いただきありがとうございます。もう少し詳しくお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか?
尾家:母親は元々体調が悪く、亡くなる1年くらい前から鬱にもなって身体も弱くなって風邪を引いたら死んでしまうという状態で、リストカット等もしてしまう状態で、私が11歳の時に自死をしました。母が自死した影響で僕の方は反抗的になったのですけど、兄は自分の中に溜めてしまったのです。それで高校を卒業して大学になってから精神病を発症したのですよ。それでもずっと薬飲みながらアルバイトして暮らしていたのですけど45歳の時に自死しています。
上村:そうだったのですね。そういったご経験から「分かち合いの場」に参加して今の活動に繋がっているのですね。
上村:「利他庵」という名前にはどういう思いをこめられているのでしょうか?
尾家:元々根本から言うと、僕の中にあるテーマというのが「母親が命に代えて生んでくれた事なのですね」
※元々お母様は身体が悪く、尾家さんを産むと自分の命も危険という事でした。
例えば、何年か前に韓国の若い人が日本で電車の前に飛び込んでまでして若い人を救ったというニュースがありましたけど「なんでそこまでできるのか?」ってことを知りたいのですね。この行動って「利他」ですよね。だからそれが分かれば多分自分の苦しみは逃れるのですよ。僕はやっぱりその母親が死んだのは自分のせいという思いがあるので。なぜ命をかけてまで他人に施すのかっていう思いがあってですね。「利他が分かりたい」事がやっぱり自分の生きる目的になっています。どこまで本当に人のために人ができるのかってことを知りたいということですね。
上村:尾家さんの中で「本当の利他」の答えを追い求めているということでしょうか?
尾家:そうですね。日本にマインドフルネスやワークショップを持ち込んだ方のリトリートに参加した時に「利他」の話をさせてもらった時に本とか色々紹介してもらったのですけど最近ようやく分かってきたのは、良い事を思いついた瞬間というのがあるんですよね。それをするにはどうすれば良いのかということがようやく分かってきたような気はしますね。ただ自分はそこに行きつけるか分かりませんけど。それには自分が本当にありのままの自分でいることによって相手がありのままに接してくれてその中になんかふと思いつく瞬間があるのかなと思っています。
上村:そうなのですね。この「利他庵」の活動を始めて具体的にそういった瞬間等は経験されました?
尾家:いや、そこはまだまだ行きつかないですね。ただ最近、フリー女性アナウンサの方がされているラジオに出させてもらい対談をさせていただいて、収録が終わった後に少し話をしていたのです。そこで彼女はちょうどお2人目のお子様を妊娠されているところでした。もう無事にご出産されましたが。その時、彼女が「もし私が今、体調を壊して自分の命か子どもの命どっちか選べと言われたら、私は迷わず子どもの命を選びます」とお話されていたのですよ。これは母性が発動するような経験できると分かるものなのかな?と思ったのですが、まだまだその境地にはいかないですよね。迷わず自分の命を捨てるとか、中々そういうところまでは全然まだ行かないですね。
上村:深いですね。「利他庵」はオイエマンさん自身にとっても自身との対話の場でもあるのですね。そしてまだ答えの出ていないものを探していく旅の場所という側面を感じました。
尾家:そうですね。だから僕からすると、まだまだそこに行きつかないですけど、結局「縁」が大事だと思うのです。結局、何か色々な縁があって、良い縁もあるし、悪い縁もある。ただ、良い縁を残していきたいと思っているのですよ。利他庵という場所でいい縁を作っていって、僕がいなくなってもその縁がずっと続けば良いなと思っていて。それが生きている価値かなと思っているのですね。
上村:それが尾家さんの生きる価値なのですね。
尾家:はい。だからどれだけ後世に良い縁を繋げるかと思っているので。
具体的な活動~繋がりと縁の大切さ~
上村:素敵ですね。具体的にどういったサービス・価値を利他庵で提供していかれるのでしょうか?
尾家:2023年7月から始めたので、まだ準備段階というところではあります。
今やっているのが、それこそ津屋崎でまちづくりやられている尊敬している方がいるのですが、その方の活動のように潜在的需要をまず一人一人と対話しようと思っていて、今、一人一人と色々な対話しているところです。
もう一つは、準備しているのが近所の朝食会です。まずこれを利他庵で月一回か月二回、まずやろうとしています。
あともう一つは、福岡県には森林セラピーの基地局が4か所あるのですが、そのうちの1か所が豊前市にあるのです。観光協会に協力してもらい、試験的に利他庵で死生観のワークショップをやって、山でリトリートしてお寺に来てもらって講話してもらうようなツアーを考えています。
上村:良いですね。色々なアイデアあるのですね。
尾家:はい、それ以外は今、福岡市、糸島市の方でいろんな子供の居場所を作る活動に参加させてもらっているので、そちらでのパイプを太くして、それがうまく重なった頃に豊前の方でまずワールドカフェを始めてそれから個別のワークショップをしていこうというふうに考えています。
尊敬する津屋崎でまちづくりされている方にリマーケティングの話をしていただいだのですが、どういう話かと言うと、いきなりマーケティング手法を使って宣伝を大きくやって一気に上がって人が集まってきても、はやりはすぐにすたれてしまう。しかし地道にやって縁を増やしていけば、ある段階でそれがつながって急に上がるから。地道に一つ一つの出会いを大切に繋がっていく大事さを教えてもらいました。
上村:なるほど。やはり今までの話はご経験とそれからいろんな方との対話、そこから生まれるご自身との内省で、今何をすべきなのかをご自身で理解してやられておられるなとすごく感じましたね。人とのつながりが大事ですね。
尾家:昨日も税理士さんと打ち合わせだったのですけど、結局そうなってくると、そこの本業っていうかメインにあるコンセプトのところ(利他庵)では収益化できないのですよ。だからどこまでブルーベリーを増やしていこうかっていう事業計画を打合せしていたのですよね。そこをうまくリンクさせていって、フロントが利他庵で、バックがブルーベリーという形でつながって、ここできっちりと収益化しないと事業が運営できないし自分生活できないのでそこを並行してやろうと思っています。やはりワークショップとかだけの事業で食べるって苦しいと感じています。どうしてもやっぱり事業の場合、ヒト・モノ・カネがいるから、そのお金をどう回すかを今このような事で考えているところですね。
みんなの心の原風景となる場所
上村:そうなのですね。尾家さんは「利他庵」でつくりたい世界とはどういうものなのでしょうか?
尾家:「森のイスキア」ってご存知ですか?
無茶苦茶料理が美味しいおばあちゃんがいてですね。青森の方で悩みをもった人がつどえる場所を持って手作り料理を提供されていたのですよ。もうなくなってしまいましたが。そこに悩んだ人が来ておばあちゃんのご飯を食べて、そのおばあちゃんの話を聞いたらなぜかもう悩みがなくなる、前に進もうという感じになって。そういった自分の心の原風景に帰って来られる場所があったのですね。私もゆくゆくは皆さんの心の原風景になる場所になればいいなと思っています。
上村:なるほど、原風景ですか。
尾家:ここに来ればなんか悩みをありのままに話して心の荷物を降ろすことができて、もう一回頑張ろうと思えるというか。ふるさとがない人の心の原風景なれればいいな、それが何世代もつづいてほしいなというふうに思っています。
上村:良いですね。そういうふうに心の原風景とか立ち返れる場所みたいなところがあると心の拠り所になってとても良いですよね。
尾家:そうですね。この前、子どもの権利に関するミニフォーラムでの講演で「結局みんな子供の頃の原風景を探している」って話があって。僕は考えても子どもの時の原風景ってはっきり思い浮かばないのです。ただ、間違いなくお母さんの笑顔があるのですね。そこに。病弱だったのであんまり会えなかったのですけど、いろんな場所での笑顔がやっぱり原風景なのかなとか。そういったものを、ぬくもりを求めているなと思いました。
そういった場所になれればいいなと思ってですね。
なんか心が、そこを思い出すと自分の心がなんか暖かくなるような場所です。
上村:良いですね。心が暖かくなる場所。利他庵はあくまでもまずは地域に密着したような活動になっていくイメージなのですかね。
尾家:そうですね。地域のそういったまず交流と、あとは、福岡市の方で活動している中でやっぱり親子の対話が必要と思った人たちが対話のきっかけで利他庵を使ってもらえればいいなと思っています。ここは対話の場所というコンセプトをだしているので、利他庵にいこう、対話をしようという家族へのメッセージになると思うので、そこに家族で行ってまず話すことから始めてもらいたいなと思っています。
上村:尾家さんにとっての想いは「子ども」がメインなのでしょうか?
尾家:やはり子供の権利がメインです。ただ、それを作るには、その大人が変わらないとできない世界があるので、その大人の世界も作ろうと思っています。だから子どもを中心にして社会を作っていくのですけど、それを理解する大人がいないとどうしようもないことなので、そういった意味では子どもを中心にその権利を考える大人を周囲にうまく張りめぐらしたいというふうに思っています。理想としては、その一人の子供にそれができる大人が七人くらいいるような形を作りたいですね。
上村:学生と社会人が関わることによってのお互いの気づきってありますよね。。学生も色々な人に出会うというのが大事なのは私も自分の体験からすごく感じます。
上村:尾家さんの今後のビジョンを教えてくれますか?
尾家:ビジョンとしては、ボランティアになるのですけど、豊前市に500名収容できるキャンプ場があるのですよね。まずは利他庵で10名くらいから始めますけど、そこを年末年始に家族のいない子どもたちでうめたいと思っています。
そこで分かち合いをして、自分たちの思いをそこで話すような場を開催したいと思っています。
クリスマスや正月ってひとりぼっちの子どもにとってすごく寂しい時期になるので、反対にそこにクラウドファンディングしてお金を集めたり、スタッフも集めたりして、キャンプ場うめられるくらいの規模になれば良いなと思っていますね。そして、その人たちがその豊前という街をふるさとみたいに思ってくれて、色々また支援してくれれば、豊前市にも相乗効果があるので、それをしたいなと思っていますね。
あとはやっぱりそうですね。地域の場として子どもたちがずっと来る場所になってほしいですね。あとは観光目的でも宿に利用してもらう事もあるので、泊まってくれた人たちがその日曜の朝とかに地域の人の朝食会があって一緒に参加してもらえればとも思っています。そういった本当に色々な形でのコミュニティが出来てれば良いなと思っています。
上村:私も豊前に行きます。
尾家:お待ちしております。またお願いします。
人生はシンプル~愛を与えることと与えられること~
尾家:先ほどから話に出ている津屋崎に来月ぐらい一回泊まりに行ってまた色々と運営の仕方とか話を聞こうと思っています。あとワールドカフェもすごく上手くて色々なところで指導されていますし、いろんな地域でやられているので、それまた相談しながら進めたいと思っています。極力今は周りに波及するように自分は出過ぎずグッと我慢しているのですね。こういった活動っていうのはその人が持っているオーラのようなものが中心になったりすることが多いと思ですよ。でもそういった人たちの事はそれだけですごいと尊敬しています。ただそういった活動を見ているとその方がいなくなったらその活動もなくなってしまですよね。やっぱり一人のオーラだと。だから僕のスタンスとしては僕が、スッと引いても、勝手に回っていく形にしたいというふうに思っています。それができていたら成功だと思いますね。
上村:なるほど。それが実現すると尾家さんはどんな気持ちになるのでしょう?
尾家:多分、それこそありのままに受け入れる。なんの感情もないのかもしれません。
上村:今の言葉は深いですね。
尾家:とある講義で「人生はシンプルで、愛を与えることと愛を与えられることである。そしてそれに外れたことした時に色々な心の問題がかかえる」という話があったのです。確かに行動として自分の欲、自尊心とか自分の利益に人を使ったりしていることもあるし、それはやはり駄目で「愛を与えること、与えられること」が大切。
僕の場合は「愛を与えられること」ができないのですよ。子どもの頃に親がなくなったりしてまず愛され方を知らないというのもあるし、あとそれから恐怖心があるのですね。人と近くなってもいずれいなくなるから、その時一番苦しむのが嫌で、だから人との距離感が、壁がある状態でそこから縮めることができないんですよね。
だから僕の目標としては活動を通して自分の思いが達成してくると逆に人に甘えられるようになっているかなと。80歳になって仕事もできなくなったときに可愛いおじいさんになっていたいと思います。このおじいちゃん嫌と思われるより、どうせ年を取って介護でお世話になるのだったらありのままに素直に好意を受け入れ「このおじいちゃん可愛い」と思うようなおじいちゃんなっていたいですね。
上村:愛の話をもう少し聞きたいなと思ったのですが、自分が与えられることか苦手という話もありました。恋愛に限らず、人からの愛を与えられる事に対してということでしょうか?
尾家:やはり自分が弱音を見せないというか頑張っていたのです。
そういう人って多いのではないかなと思うのです。大丈夫?と聞かれたら絶対大丈夫ですって言うし、逆に人が辛い思いをしていたら、自分が引き受けてしまいます。
例えば恋愛でも若い時に当時、自分の生い立ちや蓋をした感情を話す事ができたたった一人の相手だった付き合っていた女性と別れた原因というのは、実は兄の病気だったのですよ。兄が病気してその頃もおそらくずっと入院しなければならないと言われていたのでそれを彼女にも背負わせるのかと考えた時にちょっと彼女にも相談せずに、別の理由を作って別れたのです。それをちゃんと僕が頼ることができればと思ったりします。今、思えば、彼女が受け入れてくれた後に途中でいなくなるのが怖かったんだと感じます。
こういう事は人生の中でもいっぱいあったと思うんです。
この恋愛の話もそうですし、仕事で色々なことで誰かに助けるとか言えればと思った事もたくさんありました。仕事の方で恥ずかしい話なのですが、終わらないリストラで、終わらせるには、売上を上げるしかないと日中は営業に集中しているのですが、夜帰ってきた時にむなしくて寝られないから酒に逃げていた時期があったのですよ。その時、泥酔して警察二回くらい家に連れて帰ってもらいました。そんな状態が続いて、もうある日突然起きられなくなってひと月くらい精神薬飲んで休んだことあるのですけど、その時にも誰かに助けを求められていればもっと違ったのかなと思います。なんか一人で色々悩みを抱え込んで、リストラの話だから、これは人に言ったらいけないと思っていて、家族にも仕事以外の友達にも言えず、誰にも相談できずという経験をしたことがあったので、それも誰かにもうちょっと「辛い」「助けて」と言えば変わったのかなと思うのです。
上村:今お話を聞かせてもらっていると、ご自身の事をすごく理解されていると感じるのですが、このような気付きをされたのはいつ頃で、どのようなきっかけが?
尾家:この三年ぐらいだと思います。ボランティア活動でサポートをしていると自分にも気づきが生まれるのです。やはり自分もサポートされるというかそういう動きになってくるのですよね。
上村:相互作用が生まれるのですね。
尾家:はい、人に色々とサポートして傾聴することによって、自身も色々気づかされて。あ、そっか。と思うことがいっぱいありますね。
上村:そのサポートというのが今までの話にあった対話というところにも繋がってくるのですね。対話はやはり人の気付きを生むのだなと感じました。
メッセージ~生き方に生活を合わせる~
上村:本当に率直にお話をしていただきありがとうございました。このようなご経験をされてきた尾家さんは皆さんにどういったメッセージを伝えたいですか?
尾家:自分の生き方を見つけてほしいなって思います。その生き方に生活とか仕事を合わした方が良いと思っています。「こういったようにしたい。そのためにはこれだけの時間が必要で、そのために生活はどうしたら良いかというふうに考えていった方が良いと思っています。多分、仕事を優先していて、これが終わってから何かしようと思っていると多分そのチャンスっていつまでもないと思っています。それこそ「死ぬことを思い浮かべて、それが明日なら、どうする。何を優先する?そうなった時に今をやること本当にやっているの?」っていうことですよね。
もし一年後、自分が死ぬのだったら今やっていることやりますか?何に時間使いますか?ということから考えた方がいいのかなと思います。お伝えしたいのはそこですかね。あとは自分が特にNPOの人たちから注目されているのが、こういった普通、ボランティアに近い事業っていうのはだいたいNPO法人作ったりして進めていきますけど、運転資金がきついところがあるのですよね。こういったフロント事業、バック事業の考えで営利意識を持った運営ですね、利他庵の活動が上手くいったら皆さんのモデルケースにしてもらえたらと思っています。
あとは2拠点生活についてですね。田舎のこういった自分の実家とか色々な農地とかを空き家、耕作放棄地として持っておられる方って皆さん困っているのですよね。自分は田舎を離れて街に住んでいるけど、こういった空き家、農地なんかをうまく社会資源として利用できないかというやり方です。そういった意味でも、注目されているのでそこは何か上手く皆さんのモデルになれれば良いなと思っています。
上村:それってまさに尾家さんが仰っている自分がいなくても勝手に回っていくモデルですよね。
尾家:そうですね。NPOをしたくてもやっぱりきついとかあるのです。運転資金捻出するために、無理をして体壊したり、自分の私財を投げうったりしている方も結構多いのですよね。無理なくできるようになれば、それは子どもたちの居場所が増えることになってくるので、そういう活動を善意でやっている方が本当にきちんと継続できるようになってほしいと思うし、それによって救われる子どもたちが一人でも増えるのが良いなと思っています。
メッセージ~今の感情を素直に信じて~
上村:素敵ですね。子ども達へのメッセージもお願いできますか?
尾家:幸せっていうのは何か形があって求めるんじゃなくて、自分がそれを感じることが大事なんてことをこの年になってようやく分かってきました。今、思うことですけど結局僕の人生っていうのは誰かが作ったレールに反抗して、その中で競争・評価し合って、結局、終着点に何があるか考えてなかったんです。いい高校、いい大学、いい会社。そういうふうに歩いてきてその先何があるか考えずに、ただそれに反抗しているだけだったというふうに思っています。だから自分で自分の道を作っていなかったんですよ。今は自分で自分の道を作っています。自分がいい縁を作って、それを次世代のあらゆる命に伝えていきたいと思っています。
僕が今言いたいことは先ほども言いましたが、仕事や生活に生き方をあわせるのではなくて生き方に仕事や生活を合わせてほしい。そのためにはたくさんの生き方を見てほしいという事です。
僕ももっと知ろうと思っています。その中で自分の生き方を見つけようと思っています。そのためには立ち止まることも遠回りすることも必要だと思っています。特に高校生の皆さんは今から大学へ行かれるのであればまた時間もあると思うので、色々なものを見てほしいと思います。知識をつけることも大事ですけど、色々な経験も必要なのでどんどん行動してほしいですね。
上村:そういった事を尊重できる大人に我々がなって、子供たちに伝えていきたいですね。
尾家:はい、ぜひそうしていきたいです。
上村:「自分の葬式を考える」という話が本日ありましたが、尾家さんは弔辞で何と言われたいですか?
尾家:そうですね。弔辞でなんと言われたいというか。弔辞はいらないので、1つあるのは、来ていただいた方から私の娘に対して「何かあったらいつでも言っておいで」と言ってほしいですね。そして実際に娘が困ったら助けてやって欲しいなと思います。そういう関係に恵まれたいなというふうに思いますね。
それだけですね。後は葬式中にも淡々と利他庵が運営されていたら。
上村:なるほど。それもまさに利他庵が自走しているという尾家さんの願いの部分ですよね。
インタビューを通して
尾家さんと私は青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムで2023年の5月に出会いました。そこで一緒に学び、実践する中で尾家さんの暖かい人間性に惹かれ、そして利他庵の活動を聞かせていただき、是非とも今回インタビューさせていただき多くの人に思いを届けたいと思いオファーをさせていただきました。
率直にご自身の体験をお話いただき、非常に胸が熱くなりました。出会って4ヶ月の私に対してここまでお話いただけるのは非常にありがたい事ですし、また向き合い続けてきたからこそご自身の中で整理が出来ているのではと勝手ながら感じさせていただきました。
自身の原体験が自身を抑え込むプログラムを作ってしまう。でもその原体験を対話する事によって自身にも色々な気付きが生まれて、そのプログラムを書き換える、そして新たに自身の原体験から「心の原風景」となる場所を創るという活動、非常に素敵だなと思いました。
人との対話と自分との対話をとことんする事で自分の生き方を見つけていく、そして自分の生き方が見つかったら自分の感情を素直に信じて持ち続ける。
尾家さんのインタビューを通して「考え抜く」という大切さを学ばせていただきました。(文責:上村拓也 2023/9/22)
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