ワークショップ開催の背景
2023.05.20
大阪大学の起業サークル“zerO-One”の学生の皆さんと中小企業診断士、商工会議所、Code for IKEDAの皆さんとワークショップを行い、メインファシリテーターを担当させていただきました。
経緯としては中小企業診断士として一緒に活動させていただいている先輩(山崎研さん 中小企業診断士×キャリアコンサルタント)が池田市でワークショップを中心に事業者様の支援をされている事、その中で産官学士業連携をして小さなイノベーション活動(「インスタントイノベーション)をされていました。
そして私も昨今、ワークショップを体系的に学びながら実践をしている事と、学生に対するアクティブラーニング等に携わっている事等を知っていただいており、一緒にワークショップをしないか?と白羽の矢を立てていただいたというご縁でこの運びとなりました。
プログラムデザイン
今回は学生11名、大人12名の23名での予定となり、学生のうち8割は新入生、もしくは2回生だけど新入会員生という内訳で、時間は1時間半、プロジェクタやホワイトボードは無しという環境でした。
ワークショップの定義として様々な角度からの定義はありますが
- 他者理解と合意形成
- 非日常と内発的な楽しさに基づいた体験から日常に意味をもたせる
という2点があります。
こちらは青山学院大学のワークショップデザイナー育成プログラムで学んだ内容から抜粋させていただいております。
参考:https://wsd.si.aoyama.ac.jp/
そして他者理解の前に自己理解が必要という点と、起業サークルという属性や興味を活かして
「屋号de自己紹介」というワークを考えました
全体の流れとしては当初このようなプログラムをデザインしておりました。
先に申し上げますと結果としては次のような構成に変更しました。
自己紹介を省略したのはその前に簡単な懇親会をしており、そこで交流が出来てアイスブレイクが出来ていたからです。その他のプログラムの変更理由は後述いたします。
ゴールと手法
もう少し詳しく今回のワークのゴールをお伝えさせていただきますと「ぼんやりとした自己理解の解像度をあげる」「自己理解を深めることと他者との対話により自分の可能性や”好き”に気付き何かしてみたいという気持ちになる」というところを設定し、そのための手法として「屋号」「物語(ナラティブ)」を活かすように設計しました。「屋号」を考える事で自分の物語と向き合い、自分の経験やそこから生まれてきた強みや価値観に気付き、自己理解を深める。そしてそこに他者との対話を盛り込む。そういった形で設計をしました。
知識導入:ワークが機能する仕掛け
冒頭は私の方から流れの説明と本日の意図についてご説明させていただきました。投影する機器がない環境でしたので大きめのA3サイズのスケッチブックによる紙芝居形式でプレゼンをさせてもらいました。紙芝居で手書きの文字で表現する事で「手作り感」「この場のワークは緩い感じで大丈夫なんだ」という雰囲気を作ることができます。
屋号を考える際に、「相手の存在を意識すること」「ファンになってもらう事を意識すること」という事と、そのためのアイテムの1つとして「物語を語る」という事をお伝えさせていただきました。ワークショップ成功のコツの1つにデモンストレーションや事例を紹介するという事があります。今回は私自身の屋号「ナラティブサポート」に込めた想いを時系列で物語として語らせていただきました。過去の挫折体験は視野を変えて内省し直す事でそこに自分の価値観や強み、ミッションがあるという事、そして過去の挫折体験をバネにして行動を変えて新しい世界にチャレンジする事で新たな夢や目標が芽生えるリソースになるという事を私の実体験を通じて肌感覚で感じてもらいました。
個人の屋号を考える:自己理解
5つの班に分かれて大人と学生がほぼ同数になって1班4~5名で分かれてもらいました。大人は学生のメンターとなり、物語を聞いて屋号を考えるヒントを浮かび上がらせるお手伝いをしていただきました。即興で作られたチームで、大人と学生は全員がほぼ初対面でしたが双方ともワクワクしながら対話を楽しんでいる表情が印象的でした。
様子を見守るファシリテーター…
自己理解を深める:自己理解
本来はそれぞれの屋号が決まった後にそれぞれの強みと思いを活かしてどのような屋号でどのようなサービスを提供するかといった成果物を作り上げてもらう事で「他者理解」と「合意形成」のプロセスを体感してもらおうと思っていましたが、場の状態を見ていますと想定以上に成果物である「屋号」を作るところまでいくのは難しいと判断し、自己理解を深めてもらう事に重きを置きました。そして内省が難しい学生さんもおられたので内省しやすくするためのフレームワークとしてサイモン・シネック氏がTED TALKで「優れたリーダーはどうやって行動を促すのか」のプレゼンで提唱したゴールデンサークルを引用させていただきました。
「人を動かすにはWHY→HOW→WHATの順で伝えよ」
人の心を動かすのは感情であり、直感であり、「WHY」の部分から話をすることで、直感的に共感を呼び起こし、その後の内容が好印象になるという理論ですが、これは自分への対話においても同じことが言えるのではないかと思います。以下のようなフレームワークで考えてもらうように促しました。
- WHY:なぜしたいのか?(価値観・想い・使命感)
- HOW:どのようにするのか?(能力・強み)
- WHAT:何をするのか?(ビジョン・提供価値)
各チームで白紙用紙を三等分で線引きしてWHY,HOW,WHATのフレームで頭と心の中を整理してもらいました。最終的に全員用紙にそれぞれの頭と心の中を言語化する事が出来ました。
共有:他者理解と(合意形成)
学生の皆さんに指名制ではなく立候補制で発表を促したところ積極的に手を挙げてくれて、2回生が2人、1回生1人の計3名が発表してくれました。皆さんがそれぞれの物語と内省された結果、そこから得た価値観や目指したい姿に内からくる思いと、その背景にある経験が乗っかって聞き手にも深い共感を感じる発表だったと思います。その中でも入学してまだ2ヶ月の1回生の学生さんが自分の思い、価値観、提供したい価値、語呂合わせなどを網羅した屋号を作る事が出来たことは驚きでした。
プログラムをデザインした立場としては理想としてその「屋号」という成果物を期待していましたが、いざ始めてみると難しさも感じた事は先述の通りの事実です。その中で参加者である学生さんの素地としての能力の高さとメンターの大人の皆さんの能力、そして対話の力によって予想を超える成果物が創造できる事を肌感を持って体感できたのは主催側にとってもありがたい経験と気付きになりました。
発表をする事で「他の班ではこのような話があったのか」とか「新入生はそんな事を考えていたのか」「先輩ってそんな経験をされていたんだ、今度聞いてみよう」という他者理解が起こったのではないでしょうか?
そこからこのサークルで、そして今日知り合った大人達と何か価値を作っていくという「合意形成」まで行く事を当初は予定していたのですが、そこまでは難しかったですが、自分の中で何かしようという「合意形成」は生まれた人もいたのかなと思います。
講評・表彰:継続への仕掛け
学生の皆さんの発表に対して同じチームでメンター役をしていただいた方にコメントをいただきました。発表に対して良かった点、明日からの日常に戻って今日の発見をどう活かしていくかといった背中を押すコメントや、プレゼンに対する改善点といったティーチングの要素のコメント、大人側も学びや刺激をいただけたという感謝のコメントなど愛のあるコメントをいただきました。このようなフィードバックコメントをいただく事はこの場限りで終わらず具体的行動へのひと押しになると思います。
これだけでは終わらず最後には各班の大人からそれぞれのリソースを活かした賞品をサークル全体に提供させていただきました。書籍のプレゼントやセミナーへの無料招待など学生さん達の日常に活かせるものばかりで、これも継続的な学習と我々との継続的な関係性(遠慮せずに気軽に付き合ってくれても良いというメッセージ)に寄与出来ればと思っております。
参加者の感想
学生の皆さんからの感想
- 本日は貴重な経験を本当にありがとうございました!お話やワークの中で、自分の視野が一気に広がった気分です。興味のある中小企業診断士についてのお話も聞けて、目指してみたいと思いました‼︎今日はありがとうございました!
- たくさんの大人の方と喋れて、いろんな価値観を学べました!ワークを通して自分のやりたいこととかを深く考えられて本当に良い経験になりました!!みなさんとても生き生きとしているのを見て、自分も将来、自分のやりたいことを楽しくやりたいなと思いました!本当にありがとうございました!
- 今日はありがとうございました!あまり普段は絶対に関われないような方々とお話することが出来て良かったです!色んな視点からの意見を頂いて自分をより成長させるきっかけになりました!ほんとに今日はありがとうございました!!
- 今日はありがとうございました!新入生ももちろん勉強になったと思いますが、自分たち2回生以上も勉強になりました!自分自身の原点や今後やりたいこと、色んな考え方学んだり、とても充実していました!!
大人の皆さんからの感想
- 大学生の皆さんとお話ししてると本当に良い刺激を頂きました。若い方にこそ学ばなければならないなーと思う今日この頃です。
エフェクチュエーション
バージニア大学ビジネススクールのサラス・サラスバシー教授が2008年に提唱した「エフェクチュエーションという言葉。昨今耳にされている方も多いかもしれません。
成功を収めてきた起業家に見られる、従来とは異なる思考プロセスや行動のパターンを体系化した意思決定理論
サラス・サラスバシー
その中で3つの資源が大切と話をされています。その3つとは
- 自分が誰であるのか( 個性・特質 )
- 何を知っているのか( 専門・経験 )
- 誰を知っているのか( 人脈 )
今回のワークを通じて自分の個性や経験を振り返り、そして普段交わらない人と繋がり相互作用をおこしていく。そのプロセスを通して起業家精神に必要な思考・行動パターンを感じ、楽しんでいただけたのかと思います。
イノベーション
イノベーションとはWikipediaでは次のように書かれています。
物事の「新機軸」「新結合」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」のこと。一般には新しい技術の発明を指すという意味に誤認されることが多いが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自律的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。
Wikipedia
社会的に大きな変化はすぐには難しいかもしれませんが、このような小さな活動や個々の胸に秘めた思いが自立的な人を育て、組織や社会に変革をもたらしていくのだと思います。
池田市はインスタントラーメンのチキンラーメンが産まれた地です。
日清食品創業者の安藤百福が、太平洋戦争終戦直後の大阪・梅田の闇市でラーメン屋台に並ぶ行列を見て、「もっと手軽にラーメンを」という思いで開発したようです。
“もっと手軽にイノベーションを”
言い換えると
“もっと手軽に新しい価値の創造を”
このように身体1つで参加者の中に新しい価値が創造される「インスタントイノベーション」をインスタントラーメンの街池田で出来た事にご縁を感じるとともに、このような活動を継続的に行いたいと改めて感じました。
ワークショップ共催のご相談
このような地元や地域で産学連携や士業との連携によるワークショップに興味がある方はお問合せください。私自身もこのような学生の皆さんや地域の支援団体の皆さんとインスタントイノベーションが出来る活動は非常にありがたく感じております。一緒に新しい価値をデザインしてきたいと思います。こちらからお問い合わせください。
ご協力いただいた皆様
今回のワークショップにあたってご協力いただいた皆さまありがとうございました。
こちらの記事をご覧になられている皆さまも池田市は素敵な街ですので機会があれば足を運んでみてください。
■池田市観光案内所
https://www.city.ikeda.osaka.jp/soshiki/siminseikatsu/citypro/shisetsu/1415930641573.html
■Code for IKEDA
https://www.facebook.com/codeforikeda/
■zerO-One 阪大のゼロイチ集団